「つるの川秘帳」

第一章 「つるの川」参上
第二章 訓練
第三章 組織
第四章 暗雲
付録 「つるの川」人相書き


第一章 「つるの川」参上

 ある日、こざる奉行がつぶやくように言ったーーー。

「明日申の刻、しらたき、とうふ、がんもどき、大根、なると、はんぺん、スジ、たまご、あんみつ、ケーキ、なおタコは無用」

 このつぶやきは直ちに、こざる奉行付きお庭番隼人から船宿「桃丸」女将もも、並びにりか、ちゃぼへいへ、ちゃぼへいから凧師じゅんこへ、じゅんこから瓦版売りはてなへ、はてなから花売りたけへ、たけから料亭「つるの川」女将みさへ、みさから宮中女官まやのママへ、まやのママから鳥追いキンへ、キンから芸妓牛若丸へ、牛若丸から絵師ののこへ、ののこから諸事芸事師範りえ、並びにるなへ、りえから占い師てぃあらへ、てぃあらから人形師さっちゃんへ、さっちゃんから浪人るーとへ、るーとから問屋場「横浜屋」女将くりこへ、くりこから糊売りのりへ、のりから鶴之介宅下女わかばへ、わかばから鶴之介へと伝えられた。

 ふつうこれだけの人数で伝言ゲームをすれば、最初の文章は跡形もなくなり、とんでもない文章に変わることが予想されるが、あなどってもらっては困る。「つるの川」はそんな世間にありがちなミスは犯さない。一言一句違うことなく全員にきっちり伝わったのは、さすが精鋭「つるの川」と言ってよいであろう。

 そして、当日申の刻、こざる奉行宅で「つるの川」面々が持ちよった材料により盛大なおでんパーティー(デザート付き♪)が開かれたことは言うまでもない。

 一方ーーー

『明日申の刻、大奥白滝の方様、東福丸様無事ご出産の願ほどきのため聖護院へご参拝。ご用人鳴門半兵衛殿並びに配下が警護に当たられるが、政情不穏の昨今、当局筋の発表によると爆弾テロを企てている者もあるとのことゆえ、隠密裡に警護仕るよう。なおこのこと他言無用。』と読み解いた鶴之介だけは、砲火をかいくぐり獅子奮迅の活躍をしたのであるが、このことが世間にほとんど知られていないのは残念である。

【その夜のチャット】  閲覧者[21]名
つる:どうしてみんな来なかったの〜? (23:45)
つる:わかってたんでしょ?ぐすんぐすん… (23:46)
つる:ほーたーるの ひーかーり えーんえーん…(退出) (23:46)


第二章 訓練

「つるの川」の面々は平素から訓練を怠らない。

 日頃は市井に身を隠しているが、彼らは皆文武両道に優れ、この世の平和と安全を心から願い、それを壊そうとする悪には我が身の危険を顧みず立ち向かっていく勇者達なのであった。平時から心身を鍛え、己の技を磨くことは彼らに課せられた使命でもある。

 で、今日は全員揃って「お女中くるくる」の訓練である。

 因みに前回は「銭形平次流小銭の投げ方」をやった。砂浜に竹を突き刺し、それに小銭を命中させて折るというものである。コントロールを鍛えるにはもってこいの訓練であるが、折から接近中の台風の影響でだっぱんだっぱん波は打ち寄せるわ、用意した孟宗竹は金輪際折れないわ、小銭は回収できないわで大変だった。

 今回の「お女中くるくる」とは、そう、あの「お女中くるくる」である。女性にとって絶対絶命のピンチをいかに躱して反撃に転ずるかがポイントである。本来男性陣には無関係であるが、個人の趣味や嗜好が多様化する当節、万が一そのような事態に陥らないとも限らないという深謀遠慮の結果「つるの川」全員で訓練することになった。行き届いた危機管理と言えよう。

 りえ師範の指導の下、過酷な訓練が行われた。訓練は秘中の秘なので、その全貌をつまびらかにすることはできないが、閉め切った道場から聞こえる物音がその凄まじさを物語っていた。阿鼻叫喚の中に師範の叱咤の声が飛ぶ。

「我が身を独楽と思うのじゃ!独楽が目を回すか!」
「いえ、独楽には三半規管が無…」
「鶴殿!あと二十回転!」
「!☆@∇$#ぎ*+‰★」

 このような試練に耐え抜いた「つるの川」によってこの世の平和が守られていることが、世間にほとんど知られていないのは残念である。

【連絡事項】
次回の訓練は「鬼若流切り株の引っこ抜き方」です。各自ロープを持参してください。


第三章 組織

「つるの川」。その構成人数は定かではない。「一匹見かけたら三十匹はいると思え」と言われるゴキちゃんの如く、本当は八百万人くらいいるのかもしれないが、とりあえず、今わかっているメンバーをここで紹介しよう。

鶴之介。「つるの川」の中心人物にして隊長である。頭脳明晰、眉目秀麗、文武両道に優れ、南京玉すだれから「ざんざ節」までこなしてしまうという謎の美剣士である。

「よめ」と呼ばれる美女と暮らし、「エイさん」と頻繁に会い、時々「のば」と呼ばれる場所に出入りしている。

 こざる奉行。東西南北町奉行所勤務。日頃はお白州にて悪人を裁いているが、実は「つるの川」参謀、鶴之介の右腕である。任務は幕閣の情報掌握。家の床の間には「生涯斬られ役」の掛け軸が掛かっていると言われているが、真偽のほどは定かではない。

 隼人。こざる奉行付きお庭番である。正真正銘の忍びであるが、任務がない時はちゃんと庭掃除をしている。

 ところで「つるの川」は空・海・陸の三部隊に編成され、情報収集、市中警備を行っている。各メンバーは次のとおり。

「龍」と大書きされた大凧に乗って上空から偵察するのは、じゅんこである。この凧にはそれはもう想像もつかないようないろんな仕掛けがあるのだが、「つるの川」は秘密特殊集団なので、それをここで書くわけにいかないのが残念である。だが一つだけ書いておこう。この凧、龍の字の下に小さく「二様」と書いてある。だからこの凧の正式名称は「龍二様凧(りゅうじさまだこ)」という。じゅんこに化けた偽者を見破るための周到な仕掛けと言えよう。

 船宿「桃丸」は海軍部隊の基地となっている。船頭ちゃぼへいの操る屋形船にも、それはもう想像を絶する仕掛けが施されているのだが、それをここで書くわけ(以下略)。そして、もも、りか、ちゃぼへいにより組織される船団となると、これはもうスペインの無敵艦隊やロシアのバルチック艦隊よりも強く、悪の組織からは「沈黙のももちゃん艦隊」と呼ばれて恐れられているのである。

 残りのメンバーは地上任務である。みさ女将が仕切る料亭「つるの川」が中枢本部となり、もたらされた種々の情報の分析、企画、立案、宴会などが行われる。

諜報部には敏腕のエージェントがその名を連ねる。花や野菜を売りながらコツコツと巷間の情報を集めるたけ、お座敷で優雅に舞いながら政財官の癒着を探る牛若丸、鳥追い姿で市中の兄ちゃん達から悪事の芽を聞き出すキン、ハイテクを駆使し、隠れた巨悪を探り出するーと、宮中の不穏な動きに目を光らせるまやのママ、物流から悪徳商人の不正を探る問屋場「横浜屋」女将くりこ。深入りすれば自分の命も危ない任務を、彼らは日々淡々とこなしているのであった。

 特殊工作部。ここの仕事こそマル秘中のマル秘なので、ほんのサワリしか書けないのが実に残念であるが…。瓦版売りはてな、絵師ののこはマスコミを利用した陽動作戦、さっちゃんは盗聴工作、のりは最終兵器… …ピーピーピーピーピーピー…(←妨害電波) …たり(笑)するのであった。

 メンバーの教育、育成、訓練を担当するのがりえである。その訓練が過酷なことは前章に記したとおりだが、るなちゃんの笑顔を見れば頑張れるのである。

 任務の遂行に当たり、その成否を占い、日時を決め、成功を祈祷するのがてぃあらである。人知を超えた事象をもカバーできるのが「つるの川」の強みであり、重要なセクションなのである。

 庶務二課。トイレットペーパーがなくなったり電灯が切れたりしたら、わかばに言えばいいのである。鶴之介が届ける手はずになっている。

「つるの川」組織機構図

隊長 鶴之介
参謀 こざる奉行
参謀付きお庭番 隼人
空軍 「龍二様凧」じゅんこ
海軍 船宿「桃丸」もも、りか、ちゃぼへい
陸軍 料亭「つるの川」みさ
   諜報部 たけ、牛若丸、キン、るーと、まやのママ、くりこ
   特殊工作部 はてな、ののこ、さっちゃん、のり
   訓練部 りえ、るな
   占い祈祷部 てぃあら
   庶務二課 わかば


第四章 暗雲

その日は朝から冷たい雨が降っていたーーー。

【編集部よりお知らせ】

 第四章から「つるの川」が大活躍する一大スペクタクル巨編が始まり、第八十六章まで続く予定でしたが、作者の「袋小路どんづまり先生」が「捜さないでください」という書き置きを残して行方不明となられましたので、この物語は未完のまま終了します。深くお詫びいたします。

 残された創作ノートによると、総勢四百名を超える登場人物が入り乱れ、霊界をも巻き込んだ壮大な「社会派伝奇SFファンタジー恋愛小説」になる構想だったようです。

 恐らく収拾がつかなくなってトンズラこいたものと思われます。

 今回は、創作ノートからの抜粋と落書き等を掲載して、白紙を回避したいと思います。悪しからずご了承ください。

袋小路先生に励ましのお便りを出そう! ←先生が夜逃げしたため、受け付けを終了しました。

【創作ノートより抜粋】

「てェへんだ!よめ様が…(わかば)」(「第五章 何処へ?」より)

「今日は、やたらと虚無僧が多いねぇ(くりこ)」(「第六章 一節切り」より)

「このままでは富士山が爆発するぞよ!(てぃあら)」(「第九章 鳴動」より)

「こざる奉行はお留守です(こざる奉行)」(「第十五章 NHK」より)

「あんたただの商人じゃないね(キン)」(「第二十章 謎の男」より)

「うむ、わしもそう思う(近藤勇)」(「第二十二章 壬生の狼」より)

……『圏外』……!(隼人)(「第二十八章 落とし穴」より)

「矢車剣之介だッ!(矢車剣之介)」(「第三十一章 矢車剣之介」より)

「有栖川宮様にはご不快にあらしゃります(まやのママ)」(「第三十二章 詐欺」より)

「急速潜航!メインタンクブロー!(もも)」(「第三十六章 鴨川の戦い」より)

たけの手から凶器と化した大根が飛ぶ。(「第三十七章 王手飛車取り」より)

「二刀流小太刀の遣い方を伝授いたしましょう(りえ)」(「第四十一章 髑髏仮面」より)

「フッフッフ…。覚悟はよいか、鶴之介」「おのれ、幻妖斎ッ!」(「第四十七章 哀愁の目玉おやじ」より)

「るーと殿から連絡が途絶えているのです。(みさ)」(「第五十一章 流星号応答せよ」より)

「私の勝負腰巻も盗られたのよッ(匿名希望)」(「第五十二章 怪しい影」より)

「さぁさ皆の衆。悪人はこんな顔だよ(はてな)」(「第五十三章 斬る!」より)

「年末年始はお休みです(エイさん)」(「第五十六章 怪獣」より)

「てぃあらさん、風を吹かせて!(じゅんこ)」(「第五十九章 七星壇」より)

「Will you keep the bottle? (のばうさぎちゃん)」(「第六十章 ぼったくり」より)

さっちゃんの特製からくり人形ができあがった。(「第六十六章 私をつかまえてごらんなさい」より)

「様子のいい旦那だねぇ(牛若丸)」(「第六十七章 黄昏の桃太郎」より)

「ちゃん!(大五郎)」(「第六十八章 波動砲」より)

「ののこ殿、特殊メイクを頼む(鶴之介)」(「第七十章 どすこい」より)

「のり殿の最終兵器を使うしかありませぬな(こざる奉行)」(「第七十五章 超新星」より)

「ゆこう(安倍晴明)」(「第八十章 風車の弥七」より)

「『黄金の鶴』と…(ののこ)」(「第八十二章 呪文」より)

「鶴之介殿ッ!(よめ)」「よめ殿ッ!(鶴之介)」(「第八十六章 鶴之介見参!」より)


【付録】
「つるの川」人相書き

【注意書き】
・現実と妄想の区別がつかない方は、以下のページは見ないでください。
・翌月に法外な請求書が届いた、等のトラブルが発生した場合は、自己の責任で処理してください。
・「似てない!」等の苦情は一切受け付けません。似せるべく努力をしてください。
・作者の名前を付けた藁人形に五寸釘を打つ等の行為はやめてください。

以上のことを了承した方のみ、ページをめくってください。